歳をとった犬が段差でつまずくようになった。家をバリアフリーにしたほうがいいのだろうか——そう考えたとき、「バリアフリーリフォーム」で出てくる情報は、ほとんどが人のための改修です。
編集部でも気になったので、国が出している高齢ペット向けの資料と、人のバリアフリー改修を定めた厚生労働省の資料を、両方読み比べてみました。
すると、2つは同じ「段差」「滑り」という言葉を使いながら、床については向きが違うところがありました。
くらすけ
人のバリアフリーをそのまままねすれば、ぼくにもやさしい家になるんじゃないんでつか?
段差はおおむね同じ方向です。床は、そのまま同じとは言えませんでした。順番に書きます。
先に結論
- 国の高齢ペット向け資料の「部屋づくり」は、工事ではなく「置く・敷く・付ける」で書かれていた。全文に「工事」「リフォーム」「改修」は0件でした[1]
- 人のバリアフリー改修(介護保険の住宅改修)は6種類。そのうち段差の解消は犬にも同じ向きで効きます[2][3]
- 🔴 床材の変更は、向きが逆になることがある。人の改修の例示は「畳敷から板製床材、ビニル系床材等への変更」[3]。犬猫向けの資料は「マットなどを敷き、滑りにくい床に」[1]
- 制度は床材の滑りにくさの数値までは決めていない。板の床のどれを選ぶかは、選ぶ側に残ります[3]
- 家族に要介護の人がいて床を替えるなら、犬の滑りも同じ場面で決めておくのが、いちばん二度手間が少ない形です
1. ペットのバリアフリーで、国の資料は何を挙げている?
最初に読んだのは、環境省の「共に生きる 高齢ペットとシルバー世代」です[1]。高齢の犬・猫と暮らす人に向けた資料で、老化のサインと、過ごしやすい部屋づくりが1枚の図にまとまっています。
老化のサインの「行動」の欄には、次のように並んでいます[1]。
トイレをうまく使えなくなる。
段差でつまずく。
高いところに飛び上がれなくなる。
段差でつまずく、は国の資料が老化のサインとして挙げている項目です。冒頭の「段差でつまずくようになった」は、この欄にそのまま当たります。
そして部屋づくりの図には、7つの項目が書かれていました[1]。
| 項目 | 資料の書き方(抜粋)[1] | 工事が要るか(当編集部の判定) |
|---|---|---|
| 安全対策 | 「階段や台所は柵で入れなくしたり」 | 要らない(柵を置く) |
| ケージ | 「入り口以外をカバーなどで覆い」 | 要らない |
| 寝床 | 「やわらかい素材で、涼しい場所と暖かい場所に。」 | 要らない |
| 食事 | 「食器を高く食べやすくする。」 | 要らない |
| 手入れ | 「定期的な爪切りとブラッシング。」 | 要らない |
| トイレ | 「入り口を浅くして段差をなくしたり、スロープを付けるなど入りやすく。」 | 要らない(トイレ側を替える) |
| 床材 | 「マットなどを敷き、 滑りにくい床に。」 | 要らない(敷く) |
7項目のどれも、工事を前提にしていませんでした。念のため全文(本文5,249字)を編集部で走査しましたが、「工事」「リフォーム」「改修」はいずれも0件でした[1]。
くらすけ
じゃあ、ぼくのためのバリアフリーは、まず「敷く」と「付ける」からなんでつね。
編集部としては、ここが最初の分かれ道だと考えます。国の資料が挙げている範囲は、工事をしなくても始められる。工事が話に入ってくるのは、敷くだけでは届かないときです。床の滑りをどこまで下げれば足りるかは、老犬のフローリング対策で数値まで調べています。
2. 人のバリアフリー改修は、何が対象になる?
次に読んだのが、人のためのバリアフリー改修の資料です。介護保険には「住宅改修」という給付があり、厚生労働省が種類を6つに決めています[2]。
| # | 住宅改修の種類[2] |
|---|---|
| 1 | 手すりの取付け |
| 2 | 段差の解消 |
| 3 | 滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更 |
| 4 | 引き戸等への扉の取替え |
| 5 | 洋式便器等への便器の取替え |
| 6 | その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修 |
お金の枠も決まっています。資料には「生涯20万円(要支援、要介護区分にかかわらず定額)」とあり、給付は「原則9割(上限18万円)、所得に応じて8割(上限16万円)・7割(上限14万円)」です[2]。
20万円という額にも理由が書かれていました。別の通知は、対象を「手すりの取付け、床段差の解消等比較的小規模なもの」にしたうえで、それに通常かかる費用から20万円にした、と説明しています[4]。大がかりな改装を想定した枠ではない、ということです。
⚠️ 一点、読むときに注意したいことがあります。厚生労働省のサイトには同じテーマの古い版の資料も残っていて、そちらは「実際の住宅改修費の9割相当額が償還払いで支給される」とだけ書いています[5]。新しい版では、所得に応じて8割・7割もあると明記されています[2]。検索で古い版に当たると、自己負担は必ず1割だと読み違えてしまいます。
3. 老犬にも効く工事、向きが逆になりうる工事
では、この6種類を、老犬の側から見るとどうなるか。編集部で1つずつ突き合わせました。ここからの「犬にとって」の列は当編集部の判定です。
| 住宅改修の種類[2] | 通知の具体例[3] | 犬にとって(当編集部の判定) |
|---|---|---|
| 手すりの取付け | — | 関係しない |
| 段差の解消 | 「敷居を低くする工事」「スロープを設置する工事、浴室の床のかさ上げ等」 | 🟢 同じ向き。環境省の資料も「段差をなくしたり、スロープを付ける」[1] |
| 床材の変更 | 「居室においては畳敷から板製床材、ビニル系床材等への変更」 | 🔴 向きが逆になりうる |
| 引き戸等への扉の取替え | 「開き戸を引き戸、折戸、アコーディオンカーテン等に取り替える」 | 🔺 場合による(戸の開け閉めを犬が自分でするかどうか) |
| 洋式便器等への便器の取替え | — | 関係しない |
| 付帯する工事 | — | — |
段差の解消は、人と犬で同じ向き
厚生労働省の通知は、段差の解消の具体例として「敷居を低くする工事」「スロープを設置する工事、浴室の床のかさ上げ等」を挙げています[3]。
環境省の犬猫向けの資料も、トイレについて「入り口を浅くして段差をなくしたり、スロープを付けるなど」と書いていました[1]。段差は、人と犬で同じ方向を向いています。
ただし、スロープの勾配は人の基準と犬の事情をそのまま重ねられません。人の基準(1/12・1/8)から、犬の家の段差に必要な長さを出す計算は、犬用スロープの選び方にまとめています。家の階段は別の話で、老犬の階段対策で扱っています。
床材の変更は、向きが逆になることがある
ここが今回いちばん意外だったところです。
介護保険の6種類のうち3番目は「滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更」です[2]。名前だけ読むと、犬の滑り対策と同じに見えます。
ところが通知の具体例は、居室について「畳敷から板製床材、ビニル系床材等への変更」でした[3]。人の改修の例示は、畳から板へ動いています。「移動の円滑化」には、歩行器や車いすが動かしやすい床にする意味も含まれている、と編集部では読みました。
一方、環境省の犬猫向けの資料は床について、
マットなどを敷き、 滑りにくい床に。
爪が引っかかるような絨毯はやめる。
と書いています[1]。犬の側で求められているのは「滑りにくい床」です。
板の床が犬にとって滑るかどうかは、製品によって大きく違います。一般的なフローリングと、ペット向けに滑りにくさを公表している床材とでは、数値の開きがありました(老犬のフローリング対策に数値をまとめています)。
つまり、人のための「滑りの防止」の工事で畳を板にした結果、犬にとっては滑りやすい床に変わる、ということが起こりえます。同じ工事名なので、気づきにくいところです。
通知は、板の床のどれを選ぶかまでは決めていない
では制度の側で、選ぶ床材の滑りにくさまで決まっているのか。通知の本文(12,936字)を編集部で走査しましたが、「C.S.R」(床の滑り抵抗の指標)も「滑り抵抗」という語も0件でした[3]。例に挙がっているのは材料の種類までです。
=板製床材のうちどれを選ぶかは、制度が決めていません。選ぶ側に残っています。
4. 家族に要介護の人がいる家では、どう考える?
ここは誤解のないように書きます。
確認した厚生労働省の3資料には、「ペット」「動物」「犬」という語は1つもありませんでした[2][3][4]。住宅改修が必要な理由は、「被保険者の心身の状況及び日常生活上の動線、住宅の状況、福祉用具の導入状況等を総合的に勘案し」て書くものとされています[4]。住宅改修は、要介護・要支援の認定を受けたご本人のための制度です。犬のためという理由で対象になるとは、確認した資料からは読み取れませんでした。対象になるかどうかを決めるのは市町村です[2]。
そのうえで、家族に要介護の人がいて、住宅改修で床を替えることになった家を考えます。
- 床を替える理由は、ご本人の状況です。ケアマネジャーなどと相談して決まります[2]
- ただ、どの板製床材を選ぶかは制度が決めていません[3]。同じ工事の中で、犬が滑りにくい製品かどうかも候補を比べる材料にできます
- 施工会社に見積もりを頼むとき、「犬も同じ床を歩く」と伝えておく。後から犬のために床をもう一度替えるより、二度手間が少なくなります
編集部としては、この順番をおすすめします。制度の対象を広げる話ではなく、同じ工事の中で、決めずに残っている部分を使うという考え方です。
くらすけ
おじいちゃんの床を替えるときに、ぼくの足のことも一緒に言ってもらえばいいんでつね。
5. 費用はどう考える?
犬のための段差・床の工事は、介護保険の枠の外で考えることになります。工事ごとの費用の目安はペットリフォームの費用相場まとめに、断熱など他の制度で使えるものがあるかはペットリフォームの補助金にまとめています。
この記事で、工事の金額は出していません。施工事例の金額は、面積・既存の床・下地で大きく変わり、条件をそろえた一次資料を見つけられなかったためです。
参考までに、人のバリアフリー改修の枠は生涯20万円で、対象は「比較的小規模なもの」とされています[2][4]。敷居を低くする・スロープを付ける・一部屋の床材を替える、といった規模の工事を想定した額だと読めます。
そして1章のとおり、国の高齢ペット向けの資料は、まず工事をしない範囲から書いていました[1]。編集部としては、次の順で考えることをおすすめします。
- 敷く・置く・付けるでできることを先に試す(マット・柵・トイレのスロープ)[1]
- それで足りない段差だけ、段差の解消の工事を考える
- 床を替えるなら、犬が滑りにくいかを数値で確かめてから選ぶ
よくある質問
Q. 犬のためのバリアフリー工事に、介護保険は使えますか?
確認した厚生労働省の資料からは、使えるとは読み取れませんでした。資料に「ペット」「動物」「犬」は0件で、改修の理由は被保険者の心身の状況などから書くものとされています[4]。対象になるかを決めるのは市町村です[2]。
Q. 「滑りの防止」の床材の変更なら、犬にも良いのでは?
名前は同じですが、例示の向きが違うことがあります。通知の居室の例は「畳敷から板製床材、ビニル系床材等への変更」です[3]。板の床が犬に滑るかどうかは製品しだいなので、選ぶ段階で確かめてください(数値は老犬のフローリング対策)。
Q. まず何から始めればいいですか?
国の資料は、工事をしない範囲から書いています[1]。マットを敷く、階段や台所に柵を置く、トイレの入り口を浅くしたりスロープを付けたりする、の順です。寝床やトイレの置き方は老犬の介護の部屋作りにまとめています。
編集部の結論
- 国の高齢ペット向け資料の部屋づくり7項目は、工事ではなく「置く・敷く・付ける」だった。全文に「工事」「リフォーム」「改修」は0件[1]
- 人のバリアフリー改修(介護保険)は6種類・生涯20万円。給付は原則9割、所得に応じて8割・7割[2]
- 段差の解消は、人と犬で同じ向き[1][3]
- 🔴 床材の変更は、向きが逆になりうる。人の例示は畳から板へ[3]、犬猫向けは「滑りにくい床に」[1]
- 制度は床材の滑りにくさまでは決めていない[3]。家族の改修で床を替えるなら、犬の足のことも同じ場面で伝える
段差をどこまで解消すれば足りるか、床をどこから替えるかは、家の間取りと既存の床で変わります。敷くだけで足りるのか、工事が要るのかの切り分けは、記事だけでは判断できません。
写真を見ながら、どこから手を付けるかを一緒に確認できます。工事が必要かどうかの切り分けからで大丈夫です。
わが家の場合はどうなるか相談する
工事が必要かどうかの切り分けから相談できます。相談は無料です。お見積りは施工会社が現地を見たうえで作成します。
参考文献・出典
(すべて2026年9月25日確認)
- 環境省 自然環境局総務課動物愛護管理室「共に生きる 高齢ペットとシルバー世代」(PDF・全7ページ)。老化のサイン(「段差でつまずく。」ほか)/高齢犬・高齢猫の過ごしやすい部屋づくり(安全対策・ケージ・寝床・食事・手入れ・トイレ・床材) https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/r0109/pdf/full.pdf
- 厚生労働省「住宅改修の概要」(PDF・2ページ。住宅改修の種類6つ/支給限度基準額 生涯20万円/保険給付は原則9割・所得に応じて8割・7割/手続きの流れ) https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001016043.pdf
- 厚生労働省「介護保険の給付対象となる福祉用具及び住宅改修の取扱いについて」(平成12年1月31日 老企第34号 厚生省老人保健福祉局企画課長通知)改正前後の対照表(PDF・10ページ。段差の解消・床材の変更・扉の取替えの具体例) https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/housyu/dl/c16.pdf
- 厚生労働省「居宅介護住宅改修費及び介護予防住宅改修費の支給について」(平成12年3月8日 老企第42号)(支給限度基準額20万円の考え方/理由書の記載事項) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4385&dataType=1&pageNo=1
- 厚生労働省「介護保険における住宅改修」(PDF・2ページ。旧版の資料。「実際の住宅改修費の9割相当額が償還払いで支給される」) https://www.mhlw.go.jp/general/seido/toukatsu/suishin/dl/07.pdf
※本記事は住まいづくりの観点から一般的な情報を提供するものであり、個々のペットの診断・治療に代わるものではありません。歩き方や行動に気になる変化がある場合は、かかりつけの獣医師にご相談ください。
※介護保険の住宅改修の対象になるかどうかは、お住まいの市町村が判断します。本記事は制度の利用可否を判断するものではありません。

