しつけの本や動画で見かける、カチッと鳴る小さな道具「クリッカー」。「これを使うと早く覚える」と聞いて、「犬 しつけ クリッカー」を調べる人は、ラッコキーワードで月140回です[5]。
編集部は、クリッカーを勧める側の団体3つ(米国ケネルクラブ AKC、英国の動物福祉団体 Blue Cross、米国の Best Friends Animal Society)の説明と、クリッカーの効果を実験で比べた論文1本を読み比べました。すると、「早く覚える」を実験で確かめた結果は出ておらず、勧める側の団体どうしでも「声でいいか」の説明が割れていました。
| 見たこと | 結果 |
|---|---|
| 論文(3つの実験) | クリッカーを使った群が、餌だけ・言葉+餌より早く覚えた結果は出なかった[1] |
| Blue Cross | クリックは声より効果的(理由2つ)[3] |
| AKC | その音に特別な力はない。「Yes」「Good」でもよい[2] |
| 始める場所 | Blue Cross・Best Friends とも静かな場所[3][4] |
くらすけ
「カチッて鳴るやつ、買わないと覚えられないんでつか…?」
先に結論
- クリッカーが「言葉より早く覚えさせる」とは、今回読んだ実験では確かめられていません。3つの実験で、クリッカーの群が餌だけ・言葉+餌の群を上回った結果はありませんでした[1]
- 大事なのは道具ではなく「合図の条件」です。AKC は、ふだん犬の周りで出さない音なら何でもよい、と書いています[2]
- 言葉を使うなら、ふだんの褒め言葉とは別の、しつけのときだけ使う短い言葉にします(AKC はふだんの褒め言葉では「不明瞭」と書く)[2]
- 始める場所は静かな一角。音に敏感な犬なら、クリッカーを耳の近くで鳴らさない・小さな音に替える、が団体の書き方です[3][4]
- 論文が紹介する先行研究では、毎日より週1〜2回、1日3回続けるより1回のほうが覚えがよかった例があります[1]
1. クリッカーを使うと、早く覚える?
米国アリゾナ州の動物保護施設で行われた実験です[1]。生後8〜22週の子犬を3つの群に分け、同じ行動を教えました。
| 群 | 正しくできた瞬間に何をしたか |
|---|---|
| 餌だけ | 餌(ホットドッグのかけら)を渡す |
| 言葉+餌 | 「chee」という音を言ってから餌 |
| クリッカー+餌 | カチッと鳴らしてから餌 |
「Participants were puppies from AHS, 8–22 weeks old」[1]
実験は3つです。それぞれの結果を並べます。
| 実験 | 教えた行動 | 結果[1] |
|---|---|---|
| 1(30頭×3群) | おすわりを長く続ける | 餌だけ群が、言葉+餌の群より有意に上。クリッカー群は中間で、どちらとも有意差なし |
| 2(25頭×3群) | 鼻で目印にさわる→距離を伸ばす | 群の間に有意差なし |
| 3(30頭×3群) | 並んだ積み木のうち決まった1つに鼻でさわる | 群の間に有意差なし |
「The group that received only a primary reinforcer reached a significantly higher criterion of training success than the group trained with a verbal secondary reinforcer. Performance of the group experiencing a clicker as a secondary reinforcer was intermediate between the other two groups, but not significantly different from either.」[1]
(餌だけの群は、言葉を使った群より有意に高い段階まで進んだ。クリッカーを使った群はその中間で、どちらとも有意差はなかった)
論文のまとめは、次の1文です。
「Across three experiments, we found no evidence to support the claim that using a clicker as a secondary reinforcer for training dogs results in acquisition of a novel behavior more rapidly or to a higher level compared to primary reinforcement alone or a verbal secondary reinforcer.」[1]
(3つの実験で、クリッカーを使うと新しい行動を、餌だけや言葉の合図より早く、または高い段階まで覚えるという主張を支える証拠は見つからなかった)
「効かない」とは書いていない
ここで注意したいのは、論文が言っているのは「クリッカーの方が上だという証拠は出なかった」であって、「クリッカーでは覚えない」ではないことです。3つの群とも、行動は覚えています[1]。
論文自身も、実験の場と家庭では違うかもしれないと書いています。
「It is quite possible that clicker training functions differently in applied settings than in laboratories」[1]
家庭で飼い主が教えた研究も1本紹介されていて、クリッカーの群の飼い主が「教えやすかった」と答えたのは、6つの行動のうち1つ(鼻で目印にさわる)だけでした[1]。
「owners in the clicker group reported a less challenging training experience when teaching a nose-targeting behavior than was reported by owners in the food-only group but observed no differences between training groups for the other five behaviors.」[1]
くらすけ
「カチッでも、ことばでも、ごはんだけでも、ちゃんと覚えたってことでつね。」
2. 勧める側でも、「声」の扱いが割れていた
クリッカーを勧める団体は、言葉(声)とクリックの違いをどう説明しているのでしょうか。2つの団体で、書き方が違いました。
Blue Cross:「クリックは声より効果的」
「A click is more effective than your voice for two reasons. Firstly, your mood will influence how you sound and can make your voice inconsistent. Secondly, by the time you’ve praised your pet they might have moved on to something else.」[3]
(クリックが声より効果的な理由は2つ。1つは、気分で声の調子が変わり、合図がぶれること。もう1つは、褒め終わるころには犬が別のことをしているかもしれないこと)
AKC:「その音に特別な力はない」
「There is nothing magical about that specific noise, except that you likely never make it around your dog outside of training.」[2]
(その音に特別な力はない。しつけ以外でその音を犬の前で出さない、という点を除けば)
「Many people use a marker word, like “Yes” or “Good.”」[2]
AKC は、指を鳴らす・笛・舌を鳴らす音でもよく、耳の聞こえにくい犬には光や肩に軽く触れる合図でもよい、と続けています[2]。一方で、ふだんの褒め言葉を合図にするのは「不明瞭」だとしています。
「But couldn’t you just use praise in the same way? You could, but it’s not nearly as clear.」[2]
並べると、条件はそろっている
| 資料 | 声(言葉)について |
|---|---|
| Blue Cross[3] | 気分で調子が変わる・遅れる → クリックの方が効果的 |
| AKC[2] | しつけの時だけ使う言葉ならよい。ふだんの褒め言葉は不明瞭 |
| 論文[1] | 言葉の群は「chee」という、犬がふだん聞かない音を使った |
論文は、言葉の群に「chee」を選んだ理由を、犬がすでに聞き慣れている言葉を避けるためだと書いています[1]。
「we used the uncommon and likely unfamiliar sound “chee” as our verbal secondary reinforcer to try to control for words that the dogs already had experience with」[1]
つまり論文の「言葉」は、AKC の言う「しつけの時だけ使う合図」に近い形で比べられています(当編集部の読み方)。そのうえで、クリッカーとの差は出ていません[1]。
一方で、論文の実験は担当者1人が通して行ったもので[1]、Blue Cross が挙げる「気分で声がぶれる」ような、家庭の飼い主の声の違いまでは比べていないと編集部は読みます。家で声を使うなら、短い1語を、いつも同じ調子で言う——これが3つの資料をまとめた、編集部の読み方です。
合図にする言葉を家族で決めるときの考え方は、犬のしつけ一覧|コマンドの数と家族で決める言葉で扱っています。
3. 「離れた場所で効く」も、実験で試されていた
AKC は、クリッカー(や合図)が役立つ場面として、離れた場所での行動を挙げています。
「Or, what about more challenging behaviors like those performed at a distance?」[2]
論文の実験2は、まさにこれを試したものでした。長さ6.25m・幅1.575mの細長い区画で、犬が目印に鼻でさわる距離を少しずつ伸ばしています[1]。
「The testing area for Experiment 2 was a 625.0 cm by 157.5 cm area」[1]
結果は、3つの群の間に有意差なしでした[1]。
「No statistically significant differences between the groups were found.」[1]
ただし論文は、有意差がなかったことを前提に、実験2ではクリッカー群が言葉の群より平均で1段多く進み、7段目までに脱落した割合もクリッカー群がいちばん小さかった、と書き添えています[1]。「離れた場所ではクリッカーが有利」は、今回の実験では確かめられなかった、というところまでが言えることです。
くらすけ
「6mって、うちの廊下より長いかもでつ。」
4. 家のどこで練習する?
始める場所は、静かな一角
クリッカーを勧める2つの団体は、始める場所を同じように書いていました。
「Find a quiet area where you and your pet can concentrate.」[3]
「someplace quiet where there aren’t any distractions」[4]
論文の実験1・3の区画は、157.5cm×259.1cm でした[1]。面積にすると約4.1㎡(当編集部の計算)で、部屋を丸ごと使ったわけではなく、会議室の中を金属の柵で区切った一角です[1]。
「Testing was conducted inside a conference room at the Arizona Humane Society」[1]
家で置き換えるなら、次のような場所です(当編集部の読み方)。
| 見るところ | 理由 |
|---|---|
| テレビ・窓の外の人通りが目に入らない | 団体の「気が散るものがない」[4] |
| 家族の出入りが少ない時間・場所 | 同上 |
| 床が滑りにくい | おすわり・ふせを繰り返すため(床の選び方は老犬のフローリング対策) |
慣れたら、困っている場所へ
AKC は、ふだんの生活の中で「よい行動の瞬間」をとらえる使い方も挙げています。例に出てくる場所は、食卓と玄関です。
「So if you see your dog lying quietly on a mat instead of begging at the table, click then reward that behavior.」[2]
「Or if your dog has all four paws on the floor when the doorbell rings, click that moment before your dog has a chance to jump on guests .」[2]
(食卓でねだらずにマットで静かに伏せていたら、その瞬間に鳴らしてごほうび。インターホンが鳴ったときに4本の足が床についていたら、来客に飛びつく前にその瞬間を鳴らす)
玄関での飛びつきは犬の飛びつきのしつけ、インターホンの音そのものを変える方法は犬が吠えるインターホン対策で扱っています。
5. 音に敏感な犬なら
Blue Cross は、使い始める前に、犬が音に敏感でないかを確かめるよう書いています。
「check to make sure your pet isn’t sound sensitive. Some animals may be frightened by the unfamiliar sound of the click.」[3]
「Don’t point the clicker at your pet or click too close to their ears.」[3]
Best Friends は、音の大きさを選ぶことにも触れています。
「Cats, for example, are sometimes frightened by a loud click. Some pets may even require a very soft clicking sound, such as that made with a ballpoint pen.」[4]
| 気をつけること | 資料 |
|---|---|
| 使う前に、音を怖がらないか見る | Blue Cross[3] |
| 犬に向けない・耳の近くで鳴らさない | Blue Cross[3] |
| 大きな音が合わないなら、ボールペンのような小さな音に | Best Friends[4] |
| 音そのものが合わないなら、言葉・光・肩に軽く触れる合図でもよい | AKC[2] |
音を怖がる様子が続く、ふだんの生活音にも強くおびえる、といった場合は、クリッカーの練習より先に、かかりつけの獣医師に相談してください。
6. どのくらいの回数で練習する?
AKC は、最初に「カチッ→ごほうび」を10〜20回ほど繰り返すと、合図の意味が伝わる、と書いています[2]。
「After about 10–20 repetitions, your dog will understand that the marker predicts a coming reward.」[2]
Best Friends は、練習は短くと書いています[4]。
「Keep the practice sessions short.」[4]
練習の間隔については、論文が先行研究を1つ紹介していました[1]。
「Demant et al. (2011) found that dogs trained to sit and stay in a basket once or twice weekly reached a significantly higher acquisition level than those trained daily, as did those trained with only one session as opposed to three consecutive sessions per day.」[1]
(かごの中でおすわり・待てを教えたところ、週1〜2回の犬は毎日の犬より、1日1回の犬は1日3回続けた犬より、有意に高い段階まで覚えた)
この研究は、論文が引用している形で読んだもので、元の論文は当編集部では読んでいません。「毎日たくさんやれば早く覚える」とは限らない例がある、というところまでを紹介します。
よくある質問
Q. クリッカーは買った方がいい?
A. 今回読んだ実験では、クリッカーの群が、餌だけ・言葉+餌の群より早く覚えた結果は出ていません[1]。AKC も、その音に特別な力はなく、しつけの時だけ使う言葉でもよいと書いています[2]。手元にあって使いやすいなら使えばよく、無くても始められます。
Q. 合図の言葉は何がいい?
A. AKC の例は「Yes」「Good」です[2]。ただし、ふだんの褒め言葉を合図にするのは不明瞭だとしています[2]。論文は、犬が聞き慣れていない「chee」を使っていました[1]。家族全員が同じ言葉を同じ調子で使えるものを選んでください。
Q. 鳴らしたのに、ごほうびを渡し忘れたら?
A. Blue Cross は、間違ったタイミングで鳴らしてしまっても、鳴らしたら必ずごほうびを渡す、と書いています[3]。
「every time you click, give your pet a treat, even if you clicked at the wrong time.」[3]
Q. 猫にも使える?
A. Blue Cross と Best Friends は、猫にも使えると書いています[3][4]。Best Friends は、猫は大きなクリック音を怖がることがあるとしています[4]。
編集部の結論
クリッカーは、言葉より早く覚えさせる道具だとは、今回読んだ実験では確かめられていませんでした。勧める側の団体の中でも、Blue Cross は「声より効果的」、AKC は「特別な音ではない」と書き方が分かれています。
3つの資料に共通していたのは、しつけの時だけ使う合図を、いつも同じに出し、そのあと必ずごほうびを渡すことでした。クリッカーでも言葉でもかまいません。道具を選ぶより先に、静かに練習できる一角を家の中に1つ決める——というのが、編集部の読み方です。
自分の家の場合はどうなるか、確かめる
テレビや窓の外が目に入らず、家族の出入りも少ない一角をどこに取れるか——こうした条件は、実際の間取りを見ないと判断できないことがあります。
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参考文献・出典
- Gilchrist RJ, Gunter LM, Anderson SF, Wynne CDL「The click is not the trick: the efficacy of clickers and other reinforcement methods in training naïve dogs to perform new tasks」*PeerJ* 9:e10881(2021) https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7906040/ (確認日: 2026年9月27日)
- Gibeault S(AKC)「How to Use Clicker Training to Communicate With Your Dog」(Updated: Jul 19, 2023) https://www.akc.org/expert-advice/training/clicker-training-your-dog-mark-and-reward/ (確認日: 2026年9月27日)
- Blue Cross「Clicker training dogs and cats」(Page published 08/04/2015) https://www.bluecross.org.uk/advice/pets/behaviour-and-training/clicker-training-dogs-and-cats (確認日: 2026年9月27日)
- Best Friends Animal Society「A Guide to Clicker Training Pets」 https://bestfriends.org/pet-care-resources/guide-clicker-training-pets (確認日: 2026年9月27日)
- ラッコキーワード(「犬 しつけ クリッカー」月間検索数。queue.md の実測値)
※本記事は住まいづくりの観点から一般的な情報を提供するものであり、個々のペットの診断・治療に代わるものではありません。歩き方や行動に気になる変化がある場合は、かかりつけの獣医師にご相談ください。

