後ろ足がすーっと開いて、腰から落ちる。立ち上がろうとして、また滑る。
「老犬 フローリング」で検索したときにいちばん多く聞かれている質問は、「老犬がフローリングで滑らないようにするにはどうしたらいいですか?」でした(ラッコキーワードの質問検索・2026年9月3日時点)。そして返ってくる答えは、ほぼ全部が「マットを敷きましょう」です。
編集部が引っかかったのは、その手前でした。どこまで滑らなければ、この子は大丈夫なのか。その線は、どこかで決まっているのか。
調べたら、ありました。日本建築学会の論文をもとにした、犬の動作別のすべり抵抗の下限値です[1]。そして床材メーカーが公表している実測値と並べてみて、いちばん驚いたのがこれでした。
一般的なフローリングの実測値 0.214[3]は、犬が「歩き出す」動作を50%の確率で支障なく行える 0.218[1]にも、届いていませんでした。
走る話でも、はしゃぐ話でもありません。歩き出す動作の話です。
くらすけ
「滑ってるなあ」とは思ってたけど、数字で線が引かれてるとは思わなかったでつ。うちの床は、その線のどっち側にいるの?
先に結論:見る順番は3つ
調べた結果を先に書きます。
| 順番 | やること | なぜこの順番か |
|---|---|---|
| 1 | 足裏の毛と爪を短くする(費用0円・その日にできる) | 獣医師が「パッド間の毛が伸びすぎていると滑りやすくなる」と明言している[5]。床を変える前にここが効く |
| 2 | 敷くなら「点在」ではなく「動線を1本つなぐ」 | 人の設計標準は「滑り抵抗に大きな差がある材料の複合使用は避けることが望ましい」としている[4]。一方で獣医師は「一部を滑らなくすると動物はその部分を選んで歩く」とも言う[5]。点で置くのではなく、線でつなぐのが両方に合う |
| 3 | 床そのものを替えるかは、数値で位置を確かめてから | 犬の動作別の下限値が公表されている[1]。今の床がどのあたりかを知ってから決めたほうが、費用の判断がぶれない |
注意したいのは、いちばん多く選ばれている対策が、いちばん「解決していない」対策でもあることです。次の章でその数字を出します。
「マットを敷く」だけでは解決しない理由
床用ワックスのメーカーである株式会社リンレイが、シニア犬を飼っている1,010人に行った調査があります(2023年8月10日実施・インターネット調査・モニター提供元ゼネラルリサーチ)[2]。
まず、滑っているかどうか。
「シニア犬以外を含めて、愛犬がフローリングなどの床で滑っていることはありますか?」→ はい 65.0%[2]
そして、その対策として何をしているか[2]。
| 対策 | 割合[2] |
|---|---|
| マット・カーペットを敷く | 78.1% |
| 滑りにくくなる床用ワックスを塗る | 21.8% |
| 床材を変える | 11.9% |
| 靴下を履かせる | 5.8% |
8割近くがマット・カーペットです。ここまでは予想どおりでした。予想と違ったのは次です[2]。
| その対策で床の滑りは解決したか | 割合[2] |
|---|---|
| 解決した | 37.0% |
| 改善はしたが、問題がある | 51.2% |
| 解決していない | 11.7% |
「改善はしたが問題がある」と「解決していない」を足すと62.9%です。
この調査を出しているのは滑り止め床用コーティング剤を販売している会社なので、そこは差し引いて読む必要があります。ただ、8割近くが選んだ対策で6割超に問題が残っているという構図は、この記事を書くうえで無視できないと編集部は考えました。
では、何が足りていないのか。そこを確かめるために、まず「どこまで滑らなければいいのか」を探しました。
犬が滑らない床の「合格ライン」はあるのか
あります。しかも動作ごとに分かれています。
タイル建材のリビエラ株式会社が、日本建築学会構造系論文集に掲載された研究をもとにした「小型犬の動作に必要な床のすべり抵抗係数の下限値」を公開しています[1]。指標は C.S.R・D’(Coefficient of Slip Resistance・Dog’)で、値が大きいほど滑りにくいことを表します。
| 動作[1] | 50.0%の確率で支障なく行える | 84.1% | 97.7% | 99.9% |
|---|---|---|---|---|
| 歩き出し | 0.218 | 0.311 | 0.404 | 0.497 |
| 回り込み | 0.293 | 0.390 | 0.488 | 0.585 |
| 走り出し(小走り) | 0.297 | 0.394 | 0.490 | 0.587 |
| 走り出し(飛び出し) | 0.525 | 0.575 | 0.625 | 0.676 |
同社は C.S.R・D’ 0.394以上(小走りの走り出しを84.1%の確率で支障なく行える値)を自社のペット対応基準としています[1]。
測り方も公開されています[1]。
犬の肉球を想定した発泡ゴムシートと麻織物をすべり片として携帯型滑り試験機(ONO・PPSM)に装着し、小型犬を想定した5kgの重錘を乗せて引っ張り、最大荷重からすべり抵抗係数を算出する。
参照文献として挙げられているのは、「小型犬の動作に必要な床の滑り抵抗の提示 ペットの安全性からみた床のすべりの評価方法 その1・その2」(横山裕ほか/日本建築学会構造系論文集 第73巻第624号 2008年2月、第78巻第690号 2013年8月)です[1]。
ここは正確に書きます。編集部が確認したのはリビエラの公開ページであって、論文の本文そのものではありません。上の表は同社が論文をもとに掲載しているものです。
くらすけ
「滑る/滑らない」の2択だと思ってたけど、歩き出すのに要る数字と、走り出すのに要る数字は別なんでつね。年をとった子に必要なのは、たぶん上の段だ。
家のフローリングは、その線のどのあたりか
次に、実際の床材の測定値を探しました。サンゲツが、犬向けの試験による C.S.R・D’ を公表しています[3]。
| 床材 | C.S.R・D’[3] |
|---|---|
| フロテックスシート(繊維系) | 0.825 |
| わんにゃん消臭フロア | 0.432 |
| わんにゃん消臭フロア[ハード] | 0.417 |
| 住宅用クッションフロア(一般品) | 0.354 |
| 一般フローリング | 0.214 |
この2つを並べてみます。
| 床材 | 実測値[3] | 表のどこに位置するか[1] |
|---|---|---|
| 一般フローリング | 0.214 | 「歩き出し」を50%の確率で支障なく行える0.218にも届かない |
| 住宅用クッションフロア | 0.354 | 歩き出し84.1%(0.311)は超える。回り込み84.1%(0.390)に届かない |
| わんにゃん消臭フロア | 0.432 | 回り込み・小走り84.1%(0.390/0.394)を超える。飛び出し50%(0.525)には届かない |
| フロテックスシート | 0.825 | 表のすべての動作の99.9%(最大0.676)を上回る |
⚠️ この照合には、編集部として明記しておかなければならない限界が3つあります。
- 下限値の表と実測値は、別々の会社が出したものです。編集部が並べたのであって、両社が比較したものではありません
- 試験条件の記載が同じではありません。サンゲツは「JIS A 1454すべり性試験に準拠し、水+ダストと0.3%石鹸水を用いて素足でのすべり性を想定した試験」と書いています[3]。リビエラは小型犬を想定した5kgの重錘としています[1]。条件が違う可能性がある以上、「この床は合格/不合格」という判定はできません
- 両社とも「測定値であり保証値ではない」と明記しています[1][3]
それでも、位置関係としては言えることがあると編集部は考えます。一般フローリングの0.214は、表の中でいちばん低い要求値(歩き出し50%の0.218)を下回る側にあります。誤差の話として片づけるには、置かれている場所が低すぎます。
そして、これは「老犬だから滑る」という話ではありません。この数字は犬の年齢ではなく床の側の値です。若い犬も同じ床の上にいて、脚力でごまかしていた。年をとって、ごまかせなくなった。今回の資料を読んで、編集部はそう理解しました。
立ち上がる動作は、床の数値に表れない
ここが、今回いちばん引っかかったところです。
表にある動作は「歩き出し」「回り込み」「走り出し(小走り)」「走り出し(飛び出し)」の4つです[1]。
「立ち上がり」がありません。「立ったまま姿勢を保つ」もありません。
老犬の家で起きていることを思い返すと、多くはこの2つです。伏せた姿勢から立ち上がろうとして後ろ足が滑る。立ったまま体を支えきれずに開いていく。その動作の下限値は、編集部が確認した範囲では公表されていませんでした。
上位の記事に無いのではなく、探した先に無かった、という意味です。論文の本文までは確認できていないので、「存在しない」とまでは書けません。ただ、飼い主が参照できる形では見つかりませんでした。
編集部の判断: 数値の下限値は床選びの目安として有効ですが、老犬に必要な動作の一部が、その目安の外側にあります。数値だけで決められる話ではない、というのがこの章の結論です。
16歳の犬で実際に試した記録
もう一つ、探していて見つかった資料があります。東リが、一級建築士・博士の金巻氏とドッグトレーナーの三浦氏の立ち会いのもと、7頭の犬に床材の上を走ってもらった試験レポートです[6]。
一般的なフローリングと同社のクッションフロア「CFシート-P NW」を仮施工し、滑り性と減速度合いを4段階で評価しています(2022年1月10日時点の情報)[6]。
この7頭のうち1頭が、16歳の高齢犬(柴犬×コーギー)でした。プロフィールにはこう書かれています[6]。
後期高齢犬。立つ、座るなど自力で出来るが、滑りやすい場所での立位のキープが難しい。
結果はこうでした[6]。
フローリングではすぐに滑って立ち上がれなくなりましたが、CFシート-P NWでは歩くことができました。しかし滑って尻もちをつくと立ち上がるのが困難な様子も見られました。
床材を替えると歩けた。それでも、一度尻もちをついたら立ち上がれない。この2つが同じ1頭の中で同時に起きています。前章で書いた「立ち上がりの下限値が無い」という話と、きれいに重なりました。
このレポートには、もう一つ気になる記述がありました[6]。
ワンちゃんにとっては、減速することも滑ることも足腰に負担がかかります。
滑らないように減速すること自体が負担になっている、という指摘です。
同じことを、獣医師も別の場所で言っています。前出のリンレイ調査に、KyotoAR動物高度医療センター長・神志那弘明獣医師のコメントが載っています[2]。
滑らないように踏ん張ることが、筋肉、靱帯、関節などに不自然な負荷をかけ、最悪、靱帯を切ったり、筋肉を痛めたりしてしまいます。このようなことは、シニア犬になればさらに起きやすくなるので、滑らない環境づくりは特に重要です。[2]
そして、意外だったのがこの一文です[2]。
実は転ぶ方が怪我には繋がらないことのほうが多いのです。
編集部の判断: 「転ばせないこと」を目標にすると、話がマットの枚数に寄ります。この2つの資料が言っているのは、転倒そのものより、転ばないために踏ん張り続けている状態のほうを見たほうがよい、ということだと読みました。踏ん張っているかどうかは、歩き方に出ます。次の章はその話です。
フローリングで育った犬は、歩き方が変わっていることがある
東リのレポートに、もう一つ記述がありました[6]。
飛び上がる(スキップのイメージ)ように歩行することで、一見上手に歩いているワンちゃんがいましたが、三浦代表曰くこれはフローリングに慣れているワンちゃんに見られる傾向のようです。
犬は本来、衝撃を吸収するために肩甲骨と骨盤を動かすことで体への負担を減らすのですが、その動きが少ないと脚から背骨にかけて直接衝撃を受けてしまうため、将来ヘルニア等の炎症を起こしやすくなるそうです。[6]
「一見上手に歩いている」がポイントです。滑っていないから大丈夫、と見えている状態が、そうとは限らない。
ここは慎重に扱います。この記述はドッグトレーナーの見立てとして紹介されているもので、レポート内でも「〜のようです」「〜そうです」という伝聞の形で書かれています[6]。編集部としても、断定できる根拠は確認できていません。歩き方に気になる変化がある場合は、かかりつけの獣医師にご相談ください。
「滑らない」を強くしすぎると、別の問題が出る
ここからは、対策の副作用の話です。「滑らないほど良い」ではありません。その根拠は3つあります。
1. 人の設計標準が、はっきり戒めている
国土交通省の「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」には、床の滑りを扱った章があります[4]。そこにこう書かれています。
特に高齢者等にとっては、床を滑りにくくしすぎると、つまずき等の原因となることがあることについても留意することが望ましい。[4]
ちなみに、人向けの推奨値は C.S.R=0.4以上(屋内の通路、階段の踏面・踊場、便所・洗面所の床など。日本建築学会の推奨値案)です[4]。ただし人の測定は靴底を滑り片にしたもので、犬の肉球を模擬した C.S.R・D’ とは滑り片が違います。数字が近くても、同じ土俵ではありません。
2. 環境省の高齢ペット向け資料も、同じ方向を向いている
環境省のパンフレット「共に生きる 高齢ペットとシルバー世代」の床材の項目です[7]。
マットなどを敷き、滑りにくい床に。爪が引っかかるような絨毯はやめる。[7]
同じ資料が「滑りにくく」と「引っかかるのはやめる」を1行の中で並べています。行動面の老化のサインとして「段差でつまずく」も挙げられています[7]。足が上がりきらなくなった犬では、滑ることと引っかかることが同時に問題になるということです。
3. 摩擦が強すぎると、床ずれの側に振れる
あいむ動物病院(西船橋)が公開しているコラムに、こういう記述がありました。執筆はトリマー・動物看護師の小泉ひさの氏で、獣医師監修の表記はありません[8]。そのうえで引用します。
徘徊するワンコに多いのが、歩きたいけど、自分では起き上がれなくて、手足をバタバタさせて傷や床ずれを作ってしまうことです。このときにすべりにくい素材の床材を使っていると摩擦力も強いので一気に傷ができてしまい、短時間で褥瘡(じょくそう、「床ずれ」のこと)となってしまいます。[8]
同コラムは、この場合は滑りにくさより「生地が柔らかいこと」を優先していると書いています[8]。
編集部の判断: 3つとも出どころが違うのに、向きがそろっています。「滑らない」は目的ではなく、その子の状態に合わせて上げ下げする変数として扱うのが妥当だと考えます。よく歩く子と、寝ている時間が長い子では、答えが変わります。
くらすけ
「滑らないほどいい」じゃなかったんでつね。若いころは滑るのが問題で、年をとると引っかかるのと床ずれも問題になる。見るところが増えるってことか。
部分的に敷くと、かえって危ないことがある
ここは、資料どうしが逆を向いていた箇所です。そのまま書きます。
国交省の設計標準には、こういう項目があります[4]。
4.3 滑りの差
突然滑り抵抗が変化すると滑ったりつまずいたりする危険が大きいため、同一の床において、滑り抵抗に大きな差がある材料の複合使用は避けることが望ましい。[4]
フローリングの上にマットを部分的に敷くのは、まさに「滑り抵抗に大きな差がある材料の複合使用」です。人の基準に照らすと、推奨されない側に入ります。
一方で、獣医師のコメントはこうでした[2]。
事実、フローリングの一部を滑らなくすると、動物はその部分を選んで歩くようになります。[2]
こちらは部分的な対策に意味があると言っています。
編集部の読み方: 矛盾ではなく、見ている場面が違うと読みました。人の基準が心配しているのは「歩いている途中で足元の条件が急に変わること」です。犬について語られているのは「安全な場所を選べること」です。この2つを同時に満たす形は、点在ではなく線です。
具体的には、こう考えます(ここは編集部の判断で、出典にそう書かれているわけではありません)。
| ✗ 条件が急に変わる敷き方 | ○ 条件が続く敷き方 |
|---|---|
| 部屋のあちこちに1枚ずつ置く | 寝床→水→トイレ→玄関を1本の帯でつなぐ |
| よく滑る場所だけ小さく敷く | その場所を通過する動線ごと敷く |
| 段差になる厚手を部分使い | 厚みをそろえ、端を留める |
そして、敷き方そのものの注意が前出の動物病院コラムにありました[8]。
必ず四隅をしっかり止め、床材が簡単に動かないよう、柔らかい素材ではたるまないようにしてください。下写真のような「たるみ」で転んでしまったり、後ろ足に毛布が絡まるワンちゃんが非常に多くみられます。[8]
「マットを敷いたのに問題が残る」の中身は、たぶんここです。リンレイ調査の62.9%[2]と、この記述はつながっているように見えます。
今日、工事なしでできること
費用が低い順に並べます。
1. 足裏の毛と爪を短くする(費用0円〜/その日にできる)
神志那獣医師のコメントです[2]。
フローリングでは、動物の足裏(パッド間)の毛が伸びすぎていると滑りやすくなります。パッド間の毛はこまめに短くトリミングしましょう。[2]
環境省の資料も、高齢ペットの部屋づくりの「手入れ」に定期的な爪切りとブラッシングを挙げています[7]。前出の動物病院コラムも、伸びた足裏の毛と長い爪は転倒の危険を高めると書いています[8]。
床を触る前に、ここが済んでいるかを確認してください。費用がかからず、その日にできて、しかも複数の資料が一致して挙げている唯一の項目です。
2. 動線を1本つなぐ(費用: 数千円〜)
前章のとおりです。点で置かず、寝床から水・トイレ・玄関までを帯でつなぎます。
3. たるみと端を止める(費用0円〜)
四隅を固定し、めくれ上がりを作らないこと[8]。厚手のマットの端は、それ自体が段差になります。「段差でつまずく」は老化のサインとして環境省の資料に挙げられている項目です[7]。
4. 家具の配置で、滑る場所を通らせない
神志那獣医師のコメントにこうあります[2]。
よく滑る場所があるなら、家具の配置などを工夫して、同じ場所で滑りにくくさせないようにできることもあります。[2]
滑る場所そのものを直せなくても、そこを通らない動線を作ることはできます。費用はかかりません。
リフォームでできること
工事なしで足りない場合の選択肢です。
| 手 | 何が変わるか | 注意点 |
|---|---|---|
| 床材を替える | 床全体の値が上がる。上の表でいえば0.214から0.354〜0.825の側へ移る[3] | 費用がいちばん大きい。部屋単位で考える |
| 繊維系の床材にする | 実測値では最も滑りにくい(0.825)[3] | 爪が引っかかるタイプは避ける[7]。毛足の先が切ってあるもの・毛足の短いものが条件に合う |
| コーティング/ワックス | 既存の床の上で処理できる | 摩耗で変化する。設計標準も「歩行や清掃等に伴う摩耗により、竣工時の状況から変化する」と明記[4] |
床材そのものの比較は[ペット対応床材7種の比較](https://pet-kurashi.net/2026/08/19/pet-flooring-comparison/)に、コーティングとワックスの違いは[滑り止めワックスとフロアコーティングの比較](https://pet-kurashi.net/2026/08/21/dog-floor-wax-vs-coating/)にまとめています。犬全般の滑り対策は[犬が滑らない床にするリフォーム](https://pet-kurashi.net/2026/08/20/dog-non-slip-floor/)、賃貸の場合は[賃貸でできる犬の床滑り対策](https://pet-kurashi.net/2026/08/20/rental-dog-floor/)をご覧ください。
階段がある家では、床より先に階段の話になります。そちらは[老犬が階段を上れなくなったら](https://pet-kurashi.net/2026/08/28/senior-dog-stairs/)にまとめました。
費用はどのくらい?
この記事では、工事総額の相場を示しません。部屋の広さ・既存床の状態・重ね貼りが可能かどうかで変わり、今回それを裏づける形の出典が取れなかったためです。
分かっていることだけ書きます。
- 足裏の毛・爪・家具の配置は、工事費がかかりません
- 敷く対策は材料費のみです
- 床材の張り替えは面積で決まります。「滑る場所だけ」で済むかは、動線がどう通っているか次第です
費用の全体像は[ペットリフォームの費用相場まとめ](https://pet-kurashi.net/2026/08/20/pet-reform-cost/)に、見積の見方は[ペットリフォーム業者の選び方](https://pet-kurashi.net/2026/08/20/pet-reform-contractor/)にまとめています。
よくある質問
Q. 老犬がフローリングで滑らないようにするには、結局どうすればいいですか?
順番があります。①足裏の毛と爪を短くする[2][7][8] ②動線を1本つなぐ形で敷く(点在させない)[4][2] ③それでも足りなければ床材を替える、です。①を飛ばして②③に進むと、床を変えても滑る余地が残ります。
Q. 老犬がフローリングで滑るのはなぜですか?
床と犬の両方に理由があります。床の側では、一般的なフローリングの実測値0.214[3]が、犬が歩き出す動作に必要とされる下限(0.218)を下回る位置にあります[1]。犬の側では、加齢による筋力の低下と、足裏の毛や爪の伸びが挙げられています[2][7][8]。若いころから床は同じで、脚力で補えなくなった、という見方が資料とは整合します。
Q. マットを敷けば解決しますか?
最も多く選ばれている対策ですが(78.1%)、解決したという回答は37.0%です[2]。「改善はしたが問題がある」51.2%、「解決していない」11.7%[2]。敷き方の影響が大きく、たるみやめくれで転ぶ例が指摘されています[8]。
Q. 滑らなければ滑らないほどいいのですか?
いいえ。国交省の設計標準は「床を滑りにくくしすぎると、つまずき等の原因となることがある」と注意しています[4]。環境省の高齢ペット向け資料も「爪が引っかかるような絨毯はやめる」としています[7]。寝ている時間が長い子では、摩擦が強すぎると床ずれの側の問題も指摘されています[8]。
Q. 部屋全部に敷かないと意味がないですか?
部分でも意味があるとする獣医師のコメントがあります。「フローリングの一部を滑らなくすると、動物はその部分を選んで歩くようになります」[2]。ただし人の設計標準は、滑り抵抗が急に変わる複合使用を避けるよう求めています[4]。編集部としては、点在ではなく動線を線でつなぐ形を勧めます(これは編集部の判断です)。
Q. 床材を替えれば立ち上がれるようになりますか?
そこは分かりません。東リの試験では、16歳の高齢犬がフローリングでは滑って立ち上がれず、クッションフロアでは歩けたものの、尻もちをつくと立ち上がるのは困難だったと報告されています[6]。そして「立ち上がり」に必要なすべり抵抗の下限値は、編集部が確認した範囲では公表されていませんでした。歩行や起立に変化がある場合は、かかりつけの獣医師にご相談ください。
編集部の結論
- 犬向けの「合格ライン」は存在する。日本建築学会の論文をもとにした動作別の下限値が公開されている(歩き出し50%=0.218/小走りの走り出し84.1%=0.394 ほか)[1]
- 🔴 一般フローリングの実測値0.214[3]は、その表のいちばん低い要求値(歩き出し50%=0.218)にも届かない位置にある。ただし試験条件の記載が両社で同じではないため、合否の判定はできない
- 老犬にいちばん必要な「立ち上がり」「立位の保持」の下限値は、確認した範囲では公表されていなかった。16歳の犬の試験記録でも、歩けるようになっても立ち上がりは困難なままだった[6]
- 「滑らないほど良い」ではない。人の設計標準は「滑りにくくしすぎるとつまずきの原因になる」[4]、環境省は「爪が引っかかるような絨毯はやめる」[7]、動物病院のコラムは摩擦が強すぎると床ずれになりやすいと書いている[8]
- 最も多い対策(マット78.1%)で、6割超に問題が残っている[2]。原因の一つは敷き方(たるみ・めくれ)と見られる[8]
- 敷くなら点在ではなく動線を線でつなぐ。人の設計標準の「滑り抵抗の急変を避ける」[4]と、獣医師の「滑らない場所を選んで歩く」[2]の両方に合う形はこれだと編集部は考える
- 床を触る前に、足裏の毛と爪。費用0円で、複数の資料が一致して挙げている唯一の項目[2][7][8]
記事だけでは判断できないこと
今の床がどのくらい滑るかは、床を見ないと分かりません。同じ「フローリング」でも仕上げが違い、ワックスの有無でも変わります。設計標準も「床の滑りは歩行や清掃等に伴う摩耗により竣工時の状況から変化する」と書いています[4]。
どこまで敷けば動線がつながるかも、間取り次第です。寝床・水・トイレ・玄関の位置関係が家ごとに違うので、必要な長さも幅も変わります。
そして、重ね貼りで済むか、既存床を剥がす必要があるかは、下地・段差・ドアとの干渉で決まります。厚みが出るとドアが当たり、その段差が新しいつまずきの原因になります。
間取りと床の写真があれば、工事が必要なのかどうかの切り分けから一緒に確認できます。
今の床のままで動線をつなげるか相談する
工事が必要かどうかの切り分けから相談できます。相談は無料です。お見積りは施工会社が現地を見たうえで作成します。
くらすけ
床を全部替える前に、毛と爪、それから通り道。順番が分かってれば、あわてなくていいんでつね。
※本記事は住まいづくりの観点から一般的な情報を提供するものであり、個々のペットの診断・治療に代わるものではありません。歩き方や立ち上がり方に気になる変化がある場合は、かかりつけの獣医師にご相談ください。
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参考文献・出典
(すべて2026年9月3日に編集部が直接確認)
- リビエラ株式会社「ペット対応床タイルのご案内」(C.S.R・D’ の定義・測定方法・小型犬の動作に必要な床のすべり抵抗係数の下限値表・同社基準0.394)。同ページが参照文献として挙げているのは、横山裕ほか「小型犬の動作に必要な床の滑り抵抗の提示 ペットの安全性からみた床のすべりの評価方法 その1」日本建築学会構造系論文集 第73巻第624号 189-196(2008年2月)、および同「その2」第78巻第690号 1359-1365(2013年8月)。※編集部が確認したのは同社の公開ページであり、論文本文は確認していない https://riviera.jp/userguide/csrd_tiles/
- 株式会社リンレイ「【シニア犬に関する実態調査】飼い主の半数が『愛犬がフローリングで滑っている』と回答」PR TIMES(2023年10月18日)。調査日2023年8月10日/インターネット調査/調査人数1,010人/調査対象はシニア犬を飼っていると回答したモニター/モニター提供元ゼネラルリサーチ。獣医師・神志那弘明氏(KyotoAR動物高度医療センター長)のコメントを含む。※同社は滑り止め床用コーティング剤の販売元 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000010.000012324.html
- サンゲツ「データからわかる性能・品質|ペット向けフロア」(すべり性試験(ペット)・JIS A 1454すべり性試験に準拠・C.S.R・D’。※上記の値は測定値であり保証値ではありませんと明記) https://www.sangetsu.co.jp/pickup/pet/function/
- 国土交通省「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」付録 4.床の滑り(4.1 評価指標=JIS A 1454による滑り抵抗係数C.S.R/表-1 履物着用の場合の推奨値案 C.S.R=0.4以上/床を滑りにくくしすぎることへの留意/4.3 滑りの差/摩耗による変化) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/content/001892120.pdf
- (出典2に同じ。獣医師・神志那弘明氏のコメント部分を指す)
- 東リ「東リの研究レポート no.01 フローリングで犬を飼うときの滑りについて」(一級建築士・博士 金巻氏、ドッグトレーナー三浦氏立ち会い。7頭の走行試験。16歳の高齢犬の結果・考察。2022年1月10日時点の情報) https://www.toli.co.jp/inuyanekotachi/study/report01/index.html
- 環境省 自然環境局総務課動物愛護管理室「共に生きる 高齢ペットとシルバー世代」(犬・猫の老化のサイン/高齢犬・高齢猫の過ごしやすい部屋づくり・床材・手入れ・安全対策) https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/r0109/pdf/full.pdf
- あいむ動物病院 西船橋「シニア犬のための床材」(執筆: トリマー・動物看護師 小泉ひさの氏。獣医師監修の表記は無し。床材のたるみ・四隅の固定・摩擦と褥瘡) https://119.vc/manners/archives/515

