厚手の防音マットを買って、犬がよく走る場所に敷いた。それでも下の階から「まだ響いている」と言われる。敷き方が悪かったのか、それとも枚数が足りないのか。
編集部が確かめたかったのは、その手前でした。そもそも防音マットは、犬の足音に効く道具なのか。
制度と試験規格の側から調べたら、答えの一部がはっきり書いてありました。
国土交通省の告示は、「足音」を重量床衝撃音の側に定義しています[1]。
そして重量床衝撃音は、制度上「床仕上げ構造」では表示できません。表示できるのは等級か、コンクリートの厚さに換算した「相当スラブ厚」です[1]。
つまり足音は、マットの土俵ではなく、床そのものの土俵に置かれている。これが今回いちばん大きい発見でした。
くらすけ
マットって「音を消すもの」だと思ってたでつ。効く音と効かない音があるの?
先に結論:マットが得意な音と、苦手な音がある
| 軽量床衝撃音 | 重量床衝撃音 | |
|---|---|---|
| 告示の定義 | 軽量のものの落下の衝撃音[1] | 重量のあるものの落下や足音の衝撃音[1] |
| イメージ | スプーンを落とす、爪が当たるカチカチ音 | 走る・飛び降りる・どすんと着地する |
| 制度上の表示方法 | 等級 または 軽量床衝撃音レベル低減量(床仕上げ構造) [1] | 等級 または 相当スラブ厚(cm)[1] |
| 床材で表示できるか | できる(30dB以上/25/20/15)[1] | できない |
「床仕上げ構造」という言葉が出てくるのは軽量側だけでした[1]。防音マットもフローリングも、この「床仕上げ構造」に当たります。
犬の足音は、どちらに入るのか
ここが分かれ目なので、告示の言葉をそのまま引きます。
重量床衝撃音:居室に係る上下階との界床の重量床衝撃音(重量のあるものの落下や足音の衝撃音)を遮断する対策[1]
軽量床衝撃音:居室に係る上下階との界床の軽量床衝撃音(軽量のものの落下の衝撃音)を遮断する対策[1]
「足音」は重量側にしか出てきません。軽量側は「落下の衝撃音」だけです。
もちろんこの定義は人の生活を前提に書かれたもので、犬の足音がどちらに当たるかを名指しした資料は、今回は見つけられませんでした。ただ、床に伝わる力の性質で分けている以上、走り回る音・飛び降りて着地する音は重量側の性質に近いと読むのが自然です。逆に、爪が床に当たるカチカチという音は軽量側に近いはずです。
編集部としては、「犬の足音」をひとつの音として扱わないほうがよいと考えます。カチカチと、どすん。この2つは別々の対策になります。
マットの箱に書いてある等級は、部屋の性能ではない
床材の等級表記は2008年に切り替わっています。日本建築総合試験所(GBRC)と、フローリングの工業会(JAFMA)が、その違いを表で説明しています[2][3]。
| 従来:推定L等級 | 現在:ΔL等級 | |
|---|---|---|
| 何を表すか | 空間性能に結び付けた方法 | 部材単体性能を表わす方法[3] |
| 表記例 | LL45、LH50 | ΔLL(Ⅰ)-2、ΔLH(Ⅰ)-2[3] |
| 評価する範囲 | 室中央部の一般断面部のみ | 一般壁際納まりまで再現施工[3] |
JAFMAは、変更の理由をこう書いています。
いままでは空間性能を表すL等級表示と混同されやすい推定L等級表示が一般的であった為、ユーザーに誤解が生じるおそれがありました[3]
つまり「LL-45の床材」は、「その部屋がLL-45になる」という意味ではありませんでした。床材そのものが持っている低減量の話です。分譲マンションの管理規約でよく見る「LL-45以上」の指定については、JAFMAが「従来LL-45の製品の多くはΔLL(Ⅰ)-4等級に相当します」としています[3]。
くらすけ
「この床材はLL-45」と「この部屋はLL-45」は、別の話だったんでつね。
重量側の等級は、「減る」ことを意味していなかった
ΔL等級の中身を見て、いちばん驚いたのがここです。GBRCが公開している等級表記指針の下限値の表を、そのまま並べます[2]。
軽量(ΔLL等級)の下限値
| 等級 | 125Hz | 250Hz | 500Hz | 1kHz | 2kHz |
|---|---|---|---|---|---|
| ΔLL-5 | 15dB | 24dB | 30dB | 34dB | 36dB |
| ΔLL-4 | 10dB | 19dB | 25dB | 29dB | 31dB |
| ΔLL-3 | 5dB | 14dB | 20dB | 24dB | 26dB |
| ΔLL-2 | 0dB | 9dB | 15dB | 19dB | 21dB |
| ΔLL-1 | -5dB | 4dB | 10dB | 14dB | 16dB |
重量(ΔLH等級)の下限値
| 等級 | 63Hz | 125Hz | 250Hz | 500Hz |
|---|---|---|---|---|
| ΔLH-4 | 5dB | -5dB | -8dB | -8dB |
| ΔLH-3 | 0dB | -5dB | -8dB | -8dB |
| ΔLH-2 | -5dB | -10dB | -10dB | -10dB |
| ΔLH-1 | -10dB | -10dB | -10dB | -10dB |
低減量がマイナスということは、その帯域では音が大きくなってもよい、ということです。ΔLH-1は63Hzから500Hzまで、すべての帯域で-10dBが下限でした[2]。
等級が付いていることと、音が減ることは、同じではありません。
ただしなぜマイナスが許容されているのか、その理由までは今回の資料からは読み取れませんでした。(指針の該当ページは、文字が正しく取り出せない箇所がありました。)ここは断定を避けます。
業界団体自身が「重量には影響しない」と書いている
もうひとつ、はっきり書かれているものがありました。ΔL等級では床材が2つのカテゴリーに分類されます[2][3]。
- カテゴリーⅠ:カーペット、塩ビシート、防音直張りフローリングなど、薄くて柔らかい床材
- カテゴリーⅡ:乾式二重床、発泡プラスチック床など、衝撃時の変形が平面的に広がる床材
そのうえで、JAFMAのQ&Aにこうあります。
Q. カテゴリーⅠの床仕上げ材は、LHについて表示しなくても良いのはなぜですか?
A. 一般的に防音直張りフローリングなどカテゴリーⅠの床仕上げ材の多くは、躯体の重量床衝撃音にほとんど影響を与えないためです[3]
表示しなくてよい理由が、「ほとんど影響を与えないから」でした。
市販の防音マット(カーペット状のもの、塩ビ系のもの)の多くは、このカテゴリーⅠの側に当たります。マットを敷いても下の階の「どすん」が変わらないのは、使い方の問題とは限りません。
では、床の防音リフォームは何を変えているのか
重量床衝撃音の側を制度がどう表しているかを、もう一度見ます[1]。
ロ.相当スラブ厚(重量床衝撃音)
a.27cm以上/b.20cm以上/c.15cm以上/d.11cm以上/e.その他[1]
コンクリートの厚さに換算して表すという方法です。等級のほうも、等級5=おおむねJISのLi,r,H-50相当以上、等級4=-55相当以上、等級3=-60相当以上と定義されています[1]。
マンションで、既にできあがっているスラブの厚さは変えられません。だから床の防音リフォームは、スラブそのものではなく、その上に何を積むかを変える工事になります。乾式二重床(カテゴリーⅡ)が使われるのはそのためです。
| 防音マットを敷く | 床の防音リフォーム | |
|---|---|---|
| 触る範囲 | 床の上に置くだけ | 床の仕上げ・下地を作り直す |
| 制度上の位置づけ | 床仕上げ構造(軽量側のみ表示可)[1] | 同上。ただし二重床はカテゴリーⅡとして重量側も試験される[2] |
| 効きやすい音 | 爪の音などの軽量側 | 軽量側に加えて、床の作りによっては重量側も |
| 原状回復 | できる | できない(賃貸では原則不可) |
| 犬の生活への影響 | 段差ができる/滑りは別問題 | 床材ごと選び直せる |
⚠️ 二重床にすれば重量側が必ず良くなる、とは今回の資料からは言えません。ΔLH等級の下限値にマイナスが並んでいるのは、まさに床材によっては低い周波数で不利になりうることを示しているからです[2]。製品ごとの試験値を、必ず個別に確認してください。
床の張り替えそのものを検討する場合は、[ペット対応床材7種の比較](https://pet-kurashi.net/2026/08/26/cat-flooring/)や[犬が滑らない床にするリフォーム](https://pet-kurashi.net/2026/08/19/dog-non-slip-floor/)もあわせてご覧ください。滑りにくさと防音は別の性能なので、両方を満たすかは製品ごとに見る必要があります。
費用はいくら?
今回、床の防音リフォームの費用について、一次情報として引ける出典を確認できませんでした。そのため、この記事では金額を書きません。推定の相場を書いても、条件が違えば意味を持たないためです。
工事費用の考え方(何が金額を決めるのか)は、[ペットリフォームの費用相場](https://pet-kurashi.net/2026/08/19/pet-reform-cost/)にまとめています。床の防音工事で金額を左右するのは、面積・下地の作り方・既存床の撤去の有無・段差の処理です。この4点が決まらないと、金額は出ません。
賃貸の場合は、[賃貸でもできる犬の床滑り対策](https://pet-kurashi.net/2026/08/21/rental-dog-floor/)で、原状回復できる方法だけを整理しています。
よくある質問
Q. 防音マットは意味がないということですか?
A. いいえ。軽量床衝撃音の側には、床仕上げ構造として低減量(dB)で表示できる制度上の位置づけがあります[1]。爪が当たる音、物を落とす音には効きます。効きにくいのは重量側です。
Q. 何枚も重ねれば重量側にも効きますか?
A. 今回確認した資料には、重ね敷きの効果を示すデータはありませんでした。ΔL等級は試験した仕様そのものの値なので、重ねた状態は試験されていない状態になります[2]。
Q. マットの「LL-40」と書いてある表示は何ですか?
A. 従来の推定L等級の表記です。JAFMAは、これが空間性能と混同されやすいことを理由にΔL等級への変更を進めていると書いています[3]。数字が小さいほど良い(推定L等級)のに対し、ΔL等級は数字が大きいほど良いので、読み違えに注意してください[2]。
Q. 下の階から苦情が来ています。まず何をすればいいですか?
A. 記事で書けるのは「どの種類の音か」を分けるところまでです。マンションの場合は管理規約に床材の指定(LL-45以上など)があることが多く、工事の可否がそこで決まります。規約の確認が先になります。
編集部の結論
- 「足音」は制度上、重量床衝撃音の側に定義されている[1]。マットが得意な領域ではありません
- 床仕上げ構造で表示できるのは軽量側だけ。重量側は等級か、コンクリートの厚さに換算した相当スラブ厚[1]
- 業界団体自身が、薄くて柔らかい床材は「躯体の重量床衝撃音にほとんど影響を与えない」と書いている[3]
- 等級が付いている=音が減る、ではない。ΔLH等級の下限値にはマイナスが並んでいます[2]
- だから「カチカチ」と「どすん」を分けて考える。前者はマットで軽くなります。後者は床の作りの話になります
くらすけ
「マットを増やす」の前に、下の人に聞こえてるのがどっちの音かを決めるほうが先なんでつね。
床の構造(スラブの厚さ・二重床かどうか)と管理規約は、外から見ても分かりません。
どの音が問題になっているのか、いまの床で何ができるのかは、建物の作りと規約によって変わります。
ご自宅の場合どうなるかは、写真や管理規約を見ながら確認できます。
→ [住まいの相談をする](https://pet-kurashi.net/soudan/)(相談は無料です。工事が必要かどうかの切り分けから相談できます)
参考文献・出典
(すべて2026-09-05確認)
- 国土交通省「日本住宅性能表示基準」(平成13年国土交通省告示第1346号・最終改正 平成18年国土交通省告示第1129号)8 音環境に関すること/8-1 重量床衝撃音対策・8-2 軽量床衝撃音対策 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/hinkaku/061001hyouji.pdf
- 一般財団法人 日本建築総合試験所(GBRC)「床材の床衝撃音低減性能の等級表記方法(ΔL等級)について」/「床材の床衝撃音低減性能の等級表記指針」(2008年策定) https://www.gbrc.or.jp/test_research/acoustic/sound02/ / https://www.gbrc.or.jp/assets/test_research/acoustic/documents/report200803_2.pdf
- JAFMA(JAPAN ACOUSTIC & LAMINATED FLOORING MANUFACTURERS ASSOCIATION/サイト名「フローリングナビ」)「床衝撃音低減性能の表示方法変更」(一財 日本建築総合試験所 説明会資料 2008年5月より転載・許諾済) https://jafma.gr.jp/biz/hyozi/
- JIS A 1440-1:2007「実験室におけるコンクリート床上の床仕上げ構造の床衝撃音レベル低減量の測定方法-第1部:標準軽量衝撃源による方法」(ΔLL等級の測定方法として指針が指定)
- 一般財団法人 日本建築総合試験所「音響試験装置のご案内」(標準軽量衝撃源=タッピングマシン/標準重量衝撃源=タイヤ衝撃源・ボール衝撃源、試験用床版 厚150mm・200mm) https://www.gbrc.or.jp/test_research/acoustic/sound01/

